梅雨の封筒


二つおりにした封筒のお金は、

マナカに化けたり、ガソリンに化けたりした。

梅雨の空の下のアパートの、

机の上の封筒は、

おつりの10円玉といっしょに、

置かれてる。



ウォーターフール


エアコンのダクトからとぶ水は、

空の高見の雲海の

果ての水気の汁気を含む。

新しい水と汚れた水を、

ぞうきんできれいに拭き取って

ビタミンサプリを甘くかじる。



ハロゲンビーム


ロースハムにかぶりつく。

水の水車のあの向こう。

かすかな吐息と三味線の音色。

キッチンでトマトが輪切りにされると、

キミの足元に下着がおちる。

スルメを肴にした今夜の酒の

ブランデーにおちた華の色は、

移ろいやすい罠の色。




紅蓮の塔


黒い丘をかける様にして、

黒い月は、満ち欠けを繰り返す。

黒い丘の、白亜の塔の、

寝床の上でまわるエンゲージリングは、

魔法をかけた紅蓮の証。

少女は、夜の紅蓮の塔で、

没薬を香呂にくべ、灯火に油をさす。



賽の河原


その河原で氷の入った水を飲んでいると、

河原の向こうから、おーぃと呼ぶ声。

「あっ! 嫁さんだ。おーぃ」と手を振ると、

僕はぱしゃぱしゃ河を渡る。

そうして、エアコンの効いた部屋で、

『惑星メーテル』を聴くのだ。



モモンガとイタチ


サラマンダーに追っかけられたモモンガは、

ハードロックカフェで、サラダを食べる。

イタチの店員はそれを見て、

玉ネギとワカメの味噌汁をサービスする。

モモンガは味噌汁をすすると、

首に巻いたナプキンをといて口を拭き、

つつましい朝の朝食を終えるのです。




さかな野郎


俺はタコになって海をおよぐ。

するとイカと誰もいない秋の海岸で、

手をつないで歩いてみた。

砂の上でイカと寝てると、

さかな野郎がシャケおにぎりを差し出して、

さかな野郎の愚痴を聞かされた。

でも俺はタコなので、イカとトンずらしたのさ。



深夜食堂


夜に訪れた深夜食堂の暖簾をくぐり、

だし巻き卵を注文し、

奴と味噌汁で一杯 やってると、

白いコートを着た髪の長い若い女性が、

ゴハンを食べている。

遅くまで、おつかれさまです。

と、ブリの照り焼きをかじる。




高速を走る


東から来たハイウェイバスに乗り込むと、

ウォークマンの電源を入れる。

風になったのは自分ですか?

それとも歌ですか?

しばらく太陽に追っかけられるように走っていたバスは、

大陸を横断する風となって消え去る。




夏とシナモン


マフィンを食べると苦みのあるコーヒーを飲む。

こころのシナプスに入る電磁波の様に

シナモンを感じたなら、夏の苦みは消えくゆる。

夏の埃と秋の塵が混ざり合う季節の変わり目は、

そっと目薬をさして、ごまかそう。




冬のつる草


 朝もやの、澄んだ空気にひとり立つ。

丘の上に見ゆるは、紅く染まる雲。

高き空に冷たい陽光。

黒き鉄塔に止まり、カーと鳴くカラスに気を付けて、シタシタ草むらをあるく。

時折伸びたるつる草に足を取られ、

私はそのまま草に巻かれ、一本の木になる。

私の枝に小鳥が止まり、私のこころをほっこりさせる。



やきいも



 フーフーしながらやきいもを食べる。

やきいもにバターを塗ると尚うまい。

それを牛乳で頂くと、さらにうまい。

でもおこげのところはぱりぱり取るよ。



黒鳥と三日月


 荒野に三日月がのぼり、枯れた木に黒鳥がとまる。

黒鳥はカーと鳴き、旅人のこころをすくませる。

真夜中は朝にむかって動き出し、

遠くの黒い鉄塔が朝陽にギシギシ揺れると、

口笛を吹いて、西を目差す。




ハリセンボン


俺は扇風機にあたるとハリセンボンになる。

そうしてトゲトゲで女のお尻をちくちく刺すのだ。



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