スプライトと自動販売機の呼吸


アパートのすぐ横にある自動販売機で

雨に濡れながら、スプライトを買った真昼のこと。

ガタン! と出て来たスプライトと釣銭を取る。

ずぶ濡れになって階段をあがっていると、

女子高生が、後ろ髪を結わきながら、

傘もささずに、歩いているのを見かける。

その唇は、かたくなに、ぎゅっと閉じられていた。

僕はその子を尻目に、スプライトを飲んだ。

スプライトを飲んだ口の周りは、なんとなくベタベタで、

そいつを袖で拭うと、黒いヘッドホンを耳につけ、

古いアニメのサントラを聴いた。


      




雲多き青空


窓辺の景色は灰色、藍の空。

いわし雲広がる空は、稲穂刈る田畑の上に広がる。

それは何処ともなく煙草の煙みたいな狼煙のように続いている。

朱いタイトスカートの少女は、

バス停と、秋桜畑の前を抜けた地蔵のある坂道を歩く。


噴水を見ていた少女は、プリンをひとくち食べた時、

口の周りに付いたプリンを、舌を使って舐めていた。



カヌーと湖


とんがりコーンを食べながら、湖でカヌーの試合を見た。

女子マネージャーのカウントダウンが始まると、

カヌーの乗り手たちは、一斉にボールを追い、オールを漕ぐ。

女子マネージャーが、ピーッ! と笛を吹くと勝敗は決まった。

とんがりコーンの袋を持ったまま、風に吹かれて座っていると、

女子マネージャーは、タオルで汗を拭きながら、

僕のとんがりコーンをつまみ、甘い口の中で頬張った。



寒い朝


おしっこで、トイレに起きると寒い朝。


窓辺の鉢植えには、夏の間咲き誇っていた

枯れた花がもう勘弁して下さいと、うなだれている。

その横に咲く花は、まだまだ現役で、

俺っちは、まだまだ咲くぜ、と息巻いている。


そこ行くお嬢さんにはわかるかぃ?

冬の寒さの神様が、

ほら、おめぇ達、これからドンドン寒くしてやるべな、

と、雲の上で、ニヤニヤしているのを。

だから温かい格好して2度寝しなよ。

風邪ひくなよ。



コタツのクスリ


クスリがコタツの上に並んでる。

ミカンといっしょに並んでる。

静かにパソコンの駆動音が部屋の中にこだまする。

スマホが鳴る音に心底驚き、

カエルこーるにほっとなる。

電子炊飯器のごはんが炊ける音に感動を覚え、

そうして「帰ったよ〜」とドアを開ける音に、

ネコのように玄関へ跳んでゆく。




感情のない詩(うた)


ゆうぐれに、おかんがくれた焼き芋をかじる。

『秋の格好をした女の子が屈んで靴下をあげる姿が、

バックミラーの中で遠くなる瞬間』をメモしたノートを広げると、

電気炊飯器の音がSF小説のように鳴り響く。

炊飯器の音には香りがある。

紙とペンを机に置いた瞬間、

冬の花が音も立てずに散る。

花がおちる場所には、ちょっと近づけない。

まだお茶漬けを食べてる途中だから。



缶ミカン


目が覚めて、コタツの上に缶ミカン。

缶切りでぎこぎこフタを開けると、

シロップの中にミカンがいっぱぃ。

スプーンですくってクチに入れるとあまい。やはりあまい。

プリプリしていて、やさしい色した缶ミカン。

あまいシロップ舐めると


『金属ゴミ入れ』にカンカンをポイってほかる。

ゴミ箱のフタがぽこんと閉まると後は静寂。

缶ミカンで、人はさすらう。



灰色ハイウェイ


灰色の道をどこまでゆくの?

流れる景色を追っても、

ただ抑揚のない灰色のハイウェイが続くだけだ。

風のように100キロをメーターが振り切ると、

クスンダ空気がビュウビュウと吹きつけるトンネルを走り抜け、

突き抜けたハイイロの空からウィンドウに小雨が叩きつける。

もうすべて忘れたよ。つまらないことは。

霧に巻かれたら、テールランプの明滅に気をつけろ。

そこは灰色ハイウェイ。




2月のさくら


牛丼はしばらくぶりに食べる。

紅ショウガと七味ふりかけてさ。

あるく、あるく、2月のさくらの道を。

風が冷たくてもあるけるよ。

子供たちが風のようにおしゃべりしながらあるいてく。

バスにのって揺られていると、

前の座席でアイス食ってる女子高生のあたまに、

さくらの花びらがくっついていたよ。




電気スタンド


駅前の雑貨屋で買った電気スタンドはひかる。

何も知らないふりしてひかってる。

がっかりしてるときも、うきうきしてるときも、

きみは知らんふりしてひかってる。

現品処分で1個だけ残ってたきみには、

いろんなひとが興味深々で眺めたり触れたりしたのでしょう。

だからちょっと手あかが付いてたり、傷が付いていたけれど、

SF小説のようにひかるきみの下で、

やさしい時間が過ごせます。




花とだんご


橋の上を女の子が大泣きしながら渡って行きます。

彼は、ベンチの上で足を組み、顎を揉みながら、「フーム」と、

健康診断の報告書を眺める。


丸くて黒い眼鏡をかけ直した彼は、

猪突猛進するがごとく、

橋の上を彼女の名を呼びながら、走ってく。


だんごの串を河にほかって。



ブルージーンズ


ジーパン姿のおねぇさん。

短パン穿いた女の子。

ブルージーンズには程遠い僕の心はほどけます。

街ゆくあの子もこの子もブルージーンズ。

ほぅっと一息、あなたと戯れば、

ブルージーンズ、ほどけます。




大地の鼓動


俺は夜明けの砂漠に立ってコーヒーを飲んでいる。

青と群青の星辰の空を越えてゆきたい。

自由な風が吹く大地で、溶けてしまいたい。

果てのない大地で寝ていたい。

砂漠で燃え尽きた俺の屍が晒されたら、

大地にキンキンに冷えた

アイスコーヒーを振り撒いてくれ。




モーニングの過ごし方


モーニングにサラダをつけました。

ちっこぃ皿にちんまりのっかったポテトにウィンナーソーセージ。

刻んだキャベツにドレッシングをふりかける。

半分に切られたトマトにフォークをさすと灰色の空から雨が降るのを見る。

賑やかな店内にはFMラジオが流れ、

ゆで卵に塩をかけてポイっとクチに放り込むと、

おもむろにブラックコーヒーをすする。

向かいの席では君ががもしゃもしゃ旨そうにキャベツを食ってる。




チーズをかじれ!


ねずみのように、チーズをかじれ!

冷蔵庫の奥に隠されていた

雪印のチーズをかじれ!

朝になって嫁さんにバレたのなら、

嫁さんに許しを乞え!

怒られても、いじめられても、

チーズに未練があるうちは、

懲りずにチーズをかじれ!

夜明けのカップラーメンより旨い、

チーズをかじれ!




みかんの誘惑


みんなにまずいと言われたミカンが、

コタツの上にポツンと置かれている。

まずいミカンを手にとって、

俺は、ついにミカンの皮に爪を立てる。

プシュって音がして、

俺はミカンを食ってまった。

あまい、意外とあまい。



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