タコライス


 「しかしなー、これはないだろう」

 大塚は、あごひげをかいて、《それ》を興味深そうに見つめた。

 しばらく大塚は考え込んでいたが、やがてハシをにぎった。

 「食うのか? これを?」

 大塚は、宮田の言葉でハシを止めた。

 大塚のひたいから冷たい汗が流れる。

 「……宮田、せっかくの沖縄料理だ。食えよ」

 「お、俺はいいよ。お前が沖縄料理のタコライスってどんなもんだ

って聞くから、この店に連れて来たわけだし。わかった俺から食うよ」

 宮田は、割りバシをパチンと割った。

 「……いくぞ、大塚」

 「おう」

 ぐちゃ、ぐちゃ、とそれをかき混ぜる宮田。

 「混ぜるのか? 気持ちわるいな」

 「もう、じゃ先に食えよ。そんなこと言うんだったら」

 「……」

 宮田は、ハシをおいて酒を飲んだ。

 大塚もコップの酒を飲んだ。

 「あんたたち、まだ食べてないの? タコライス」

 「おかみさん、これは食えねーって」

 大塚は辟易した。

 「まあ、ごはんのうえに《生きてるタコがのってるだけ》だからな」

 「こ、これがタコライスか」

 「わかってるじゃん」

 宮田は、何でもなさそうに酒をまたちびりと飲んだ。

 「このタコ」

 「俺がタコだって言うのか!」

 「ああ、タコ野郎だ」

 宮田は、自分のアタマをツルリとなでた。

 口をとんがらせ真赤になって怒った顔がタコみたいだった。

                 おしまい




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