はなもちならないアイツ


ACT1、夏野の陰謀

 「それはもうやめてくれないか! 夏野!」
 自称オンライン作家である古間由宇は、作家の夏野清に文句を言った。
 「なぜ、いつまでも僕が君のゴーストライターをやらなきゃいけないんだ!」
 夏野は、すました顔で、
 「それは君が才能あるからさ。頼むよ、古間」
 由宇は、顎をかいてから、さっさと玄関で靴を履いている夏野の背中を忌々しそうに見た。
 夏野は振り返ると、笑顔で、
 「じゃあ、そういうことだからさ。君の好きなミステリーをまた一本書いてくれ。
もちろん謝礼は出すし、原稿を俺のところに持ってくれば、俺の文章に直すからさ。
そうだな、期限は今月、八月いっぱいだな。じゃあ、頼むよ」
 由宇は、またか! と、夏野の出て行った玄関に塩をまいた。
 (……誰が書くもんか。ここはアイツにバレないように引っ越そう) 
 由宇は、急いで荷物をまとめはじめた。
 「あれ? あいつ、何か忘れて行ったぞ」
 さっきまで夏野が座っていたソファーに、グアム行きの航空チケットが落ちていた。
 (自分は書かないで海外でバカンスだと! ふざけるのもいい加減にしろ。そうだ、僕は
このチケットでグアムに行こう。グアムで、僕の名前、古間由宇の名でミステリーを書き、
出版社に送るんだ)
 


ACT2、グアムに行くのは誰だ?

 グアム行きの飛行機は、気持ち良く、窓から見る雲海も壮大なものだった。
 由宇はノートパソコンに向かい、キーボードをたたいていた。
 「すいません、コーヒーをもう一杯下さい」
 スチュワーデスに、コーヒーのサービスを頼むと、パソコンを閉じて少し休もうとシートを倒した。
 「ん? あれは……」
 なんと、通路を挟んだ斜め前の席に、ノートパソコンを広げている夏野がいるではないか!
 どうやら、こちらには気づいていないようだ。人にゴーストライターを頼むいい加減なヤツだが、
あれでも人気作家のはしくれ。かなり集中して書いている。
 夏野もコーヒーサービスを頼むと、鞄を床に置き、ふっと由宇のほうを見た。
 夏野は、さっと立ち上がり、つかつか由宇に向って歩いて来ると、
 「おー、古間っ、古間! やっぱりお前の家に航空チケット忘れて……いや、さては盗んだろう?」
 「な、なにを! お前こそいつも人の小説盗んでいるクセに」
 夏野は、しーっと、人差し指を自分の口に当てる。
 「わかった。わかったからそれだけは内緒にしてくれ。俺の作家としての地位がなくなる」
 「夏野、この航空チケットは、貴様との手切れ金だ。もう、僕は自分のためにしか小説は書かない。
ゴーストもやらない」
 夏野は、すんなりと、
 「わ、わかった。これで俺とお前の関係はなしということにしよう」
 由宇は、いくぶん面くらって、
 「うん、こっちも承知でやったことだし、お互いの秘密にしよう」
 夏野は、澄まして自分の席に戻ると腰かけた。そして振り向き、
 「古間、そう言ってくれると助かる。では、仲直りの記念にグアムで、パァーッと遊ぼうじゃないか」
 そう言ってるものの、夏野は、引きつった笑いを浮かべている。
 「そうだな夏野」
 ほほ笑む由宇。だが、その時、どちらの目にも殺意があったのは神のみぞ知るというものだろう。
 


夏休みに遊びに来た自称(夏野清)との合作です。
創作時間2時間(笑)
           
2008/8/11更新



ACT3、ミステリー、ミステリー

 グアムは晴天で、海は信じられないくらい綺麗だった。
 「古間、お前は泊るところ決まってんのか?」
 空港を出てから由宇はデジタルカメラを写しまくっている。
 「いや、決まってないよ。すみません、ちょっと写真撮ってもらえますか?」
 そう言って観光客の女性にカメラを手渡す由宇。由宇は夏野と肩を組む。
 「はいチーズ」
 と女性。夏野は案外美人だと思った。
 パシャ! フラッシュが夏野の脳裏を焼いた。フラッシュバックが夏野に襲いかかる。
 (なんなんだこれは、うっ)
 片ひざをついて、嘔吐する夏野。
 「夏野! どうしたんだ。飛行機に酔ったか」
 グアムの空港の前で夏野は、由宇と見知らぬ観光客の女性に肩を抱えられていた。
 「すみません」と夏野。
 「気にしないで下さい夏野さん、わたし、あなたのファンなんです。本は全部読んでいますよ」
 女性は、夏野に握手を求めた。
 「そうですか、それはありがとうございます」
 夏野はこころよく握手した。
 「ありがとうございます」と由宇もなんとなく礼をいいながら思った。
 (この女性は僕の読者でもあるわけだ……)
 「とりあえず、あそこのベンチに夏野さんを。あ、私、名前は田中亜由美と言います」
 「田中さん、ありがとうございます」
 夏野はそう言って、深いため息をついた。
 「もう、大丈夫です。悪いな古間。どうやら、カメラのフラッシュで、何か思い出したみたいで」
 「思い出した? 夏野、お前なにかあったのか」
 由宇は怪訝な顔をした。
 「実は先週、オレは丸一日、記憶を無くして、よくわからないが、気がついたら公園で寝ていた。
前日、自家用の車でクライアントの話を聞きに行く途中から記憶は消えていたんだ。車はなぜか
家の車庫にあったのだが、クライアント先と出版社の方はオレが行方不明になったって大変だった
らしい。古間、俺はどうしちまったんだ」 
 田中亜由美と名乗った女性が口を挟んだ。
 「あの、それって夏野さん、誘拐されたんじゃありません?」
 「誘拐?」と声をそろえる夏野と由宇。
 「そう、誘拐」
 「えっ、でも誰に?」と由宇。
 「もちろん宇宙人に決まってるじゃありませんか」
 「宇宙人!?」と由宇。
 「田中さん。結局、俺の結論もそこにたどり着く。でも、なぜ異星人が俺をアブダクトするのか」
 「夏野さん、体に傷の後とかないですか?」
 「インプラントされてるかってことでしょ」
 「そうそう夏野さん、それインプラント」
 「おいおい、なんの会話それ」と由宇は目をぱちくりしている。
 「異星人に誘拐されることを、アプダクトと言い。異物を体に埋め込まれることをインプラントと言うんだ。
 アメリカではかなりの実例が報告されている」


08/8/12 夏野が更新


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