味加減





1話、饒舌な舌加減
 
 僕の手にしている漫画を奪うように取ると、裸のままのアラサー女の綾は、ホテルのベッドに尻を置いて足を組み、ホテル備え付けの茶を飲みながら、漫画をぱらぱらめくりだした。
 細身の彼女は、腰まで伸びたロングの髪に、薄紅色の小ぶりなバストに、小ぶりな尻。背丈もそれほどなく、見てくれもそれほど美人でもブスでもない彼女は、秀でた特徴もなく、ごく普通の女の子だ。僕はコーヒーを手に、ベッドで裸のまま寝そべり、うつぶせで漫画を読み始めた綾の尻を眺めることにした。
 
 汚い酒場通りでトランクを引いて、ニットの帽子を被って道に迷っていた旅行者の綾は、道端にゲロを戻していた僕の背中をさするついでに、ホテルの場所を訪ねて来た。一緒に飲んでいた仲間ともはぐれた僕は、彼女を連れて、ラブホテルに案内した。

 「……はぁ。まぁ、確かに泊まれますね」

 泥酔した僕の肩に腕を回した彼女は、ホテルに僕を連れ込むと、ベッドに僕を寝かせて、服を脱ぎシャワーを浴びた。



第2話、風の果て 

 荒野で風に吹かれていると、砂丘を超えた丘の辺りで綾が手を振っている。僕は、コートのポケットに手を突っ込むと、砂に足を取られながらもあるく。上空には、月が浮かんでいて、砂丘の黒い斜面に、僕らの影だけが動く。

 砂塵を受けて、クルマに乗り込んだ。軽カーは流麗な動きを見せて、ドライビングした。綾は、コンパクトのかがみで、鼻毛の処理をしている。

 「時々さあ、思うのよ。何で女ってこうめんどくさいのかなって。きみは男だから良いよね」

 何が良いのかわからないけれど、綾の言葉も一理あるかも。タイヤがすべって、ガードレールを突き破った時には、ああ〜これで僕の人生もおわるんだ的なことを考えたけれど、綾だって包帯でぐるぐる巻きなのに、リンゴを剥いてくれた。

 「へたくそ」

 綾は、笑顔で僕がリンゴをシャコシャコ食うのを見つめている。



第3話、植木鉢と雨

 雨に濡れたまま、物干しざおの洗濯を取り込み、縁側にぶちまけた。ちょっと湿っているけど、まーいいかと、縁側で胡坐を掻いて、洗濯を畳む。綾のパンツのちょろんと出た糸をハサミで切ってあげて、それをきれいに畳む。

 庭に咲く桔梗の花の植木鉢に、シトシト雨粒が落ちてきて、紫の花が雨ツユで濡れる。ドンドンドンと僕の心臓の動きを感覚できるほど、静かな雨降りの日に、座敷で習字をする綾は、墨汁をこぼしたらしく、ズボンを脱いで、太股を半紙を丸めて拭いている。

 「あ〜、もう! パンツまで濡れちゃったよ」

 「あはは。おもしろい人だ」

 僕は、畳んだばかりの綾のパンツをほいと綾に渡した。



第4話、真っ暗な部屋で

 庭の門を開けると、砂漠が広がる。地球は砂漠化が進んでいるというけれど、日本も例外はない。白い砂は、雪の様に町をすっぽり包み込み、じゃりじゃりと口の中も砂の味がする。でも、車もガソリン車は廃止され、水素エンジンになったし、ということは、大気の空気もきれいになり、南極のオゾンホールもこれ以上はでかくならないということは、永久凍土も溶けにくくなり、海抜もあがらず、ゆるんだ地表もしまって、地震や火山の噴火も減るんじゃないかと推測する。

 「それに、地球が冷えるということは、みんなの機嫌が良くなって、戦争とか減ると思うんだ」

 ザァーと降る雨の中、真っ暗な部屋の縁側で、髪もシャツもびしょ濡れな綾の背中は、肌やブラジャーの紐が透けている。滝の様な雨は、びゅうびゅうと風と共に、縁側に立つ綾を濡らしていた。

 「アハハ。凄い雨だね」

 「着替えないと、風ひくよ?」



第5話、雨と終局

 カッ! と開いたアジの開きを頂く。雨と天気の相互関係に思いを馳せつつ、魚を味わい、熱いお茶をすする。風が吹くように、朝に太陽がのぼるように、すべてが自然であることの意味合いと、清い湧き水が苔むす石から染み出る様な、そんな世界に生きてる。そのわずかな歪みや、割れた骨董品の様な思考センスにため息交じりで、雨を背景に窓辺に立つ綾は、尻に手を入れ、

 「あ〜かゆい」と生で尻の穴を掻くのだった。


                      〜おしまい〜



味加減

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